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Experience Note

吉川 利弥 (山口大学医学部医学科5年

 今回、Twitterで偶然見つけた生理学若手の会のサマースクールは私の目に大変魅力的なものに映った。このサマースクールは今の自分には少し難しいものなのではないかという思いがあり一瞬躊躇したが、結局すぐに申し込んだ。臨床実習を行っている最中の医学部生である私は、普段研究活動を行っていない。しかし、日々の実習のなかで、臨床のおもしろさに気づき始めると同時に、以前より興味のあった基礎の分野から少し距離が開いていくことに少しの不安、不満も感じていた。最近のトレンドである神経内分泌の話題を度々目にする機会はあり、サマースクールに参加することで関連する知識を深められるかもしれない、そして自分を刺激する何かが待っているかもしれない、などということを期待しながら東京への新幹線に乗り込んだ。

 今回、オレキシン、オキシトシン、性ステロイドホルモンなどの内分泌系の話を各先生より聞くことができた。どの講義も前半部分で基礎知識を概説してくださったのは未熟な私にとって非常にありがたく、後半部分の話にスムーズに入っていくことができた。印象に残った話はたくさんあるが、その中でもオキシトシンの話は特に興味深かった。私の中でオキシトシンは射乳反射や子宮収縮のイメージが強かったが、無脊椎動物など遠縁の生物もオキシトシン様物質を有しており、乳腺や子宮など哺乳動物特有の臓器に対する機能がメインではなく、社会性行動に対する機能がメインではないかという話を聞けた。社会的刺激に対するオキシトシン濃度の上昇についての中で、イヌと飼い主が見つめ合うと双方のオキシトシン分泌が増大するという話があったが、私は引退まで馬術部に所属していたため、異種間でのコミュニケーションがホルモンのレベルで証明されたような気がして非常に印象に残った。

 私の拙い文章力では書ききれないが、刺激的な二日間であった。懇親会でお話しさせていただいた研究者や学生の方々との貴重な出会いも経験し、知らなかった情報もたくさん入手することができ大変意義深かった。来年も開催されるのであれば是非参加したいと思う。

田中 智明 (広島大学大学院総合科学研究科 認知生理学教室

 私は、人の感性認知活動について心理生理学的研究を行っています。脳波を扱っていますが、生理活動についてはまだ詳しい知識に乏しいため、この機会に神経内分泌系の指標について理解を深めたいと考え、参加させていただきました。

 最初のご講演では、櫻井武先生に、睡眠覚醒制御におけるオレキシンの役割についてお話いただきました。ナルコレプシーの研究から、睡眠・覚醒の制御にはその切替えだけでなく、覚醒の安定性の維持がオレキシンによって支えられる必要があることを知り、睡眠覚醒メカニズムについての理解が深まりました。続いて東田陽博先生には、オキシトシンと自閉症者のコミュニケーションや社会性認識記憶の障害とのかかわりについて、CD38KOマウスを用いた基礎研究から人での臨床研究までご紹介いただきました。マウスに観察される行動とヒト社会における行動の対応づけが非常に分かりやすく面白かったです。2日目の尾仲達史先生には、オキシトシンのより体系的な働きについてお話いただきました。オキシトシンの放出は摂食や性行動、愛着行動などの幸福感誘発刺激によって活性化され、肥満や社会的孤立を抑制するという働きをもつと分かり、ポジティブ心理学における療法の背景にはオキシトシンが関わっていそうだと感じました。最後に、小川園子先生には、ステロイドホルモンが性分化・性行動に及ぼす影響についてご講演いただきました。雌タイプ・雄タイプの行動といった個人差の形成に、成長過程で放出されるホルモンの作用だけでなく、胎児期のテストステロン量も影響すると知って驚きました。

 今回のサマースクールは、内分泌系に全く詳しくない私にとって難しい話も多くありましたが、どの講演でも最初の半分を基礎的内容の説明に充てていただき、後半の専門的な内容を理解するのにとても役立ちました。人の社会行動を動物実験によって研究する領域に触れることができ、学びの多い2日間となりました。このような機会をいただきありがとうございました。

吉岡 敏秀 (大阪大学大学院生命機能研究科

 今年のサマースクールでは、神経内分泌をテーマに、オキシトシン等の内分泌物質が睡眠・社会性行動・性差などに影響していることを学びました。私は視覚機能を研究しており、神経内分泌のことはほとんど知らなかったです。しかし、基礎からお話し頂いたので、多くの知識を得ることができました。そして、基礎的なことでも私が知らないことが多数あったので、実りあるサマースクールでした。例えば、ホルモンは化学構造で3種類に分類されることやクシクラゲも内分泌物質を持つことです。講師の方々の研究の話も興味を惹きつけるような話だったので、最後まで集中力を切らさずに聞くことができました。特に、マウスの子育てをテーマにした話では、最近話題のイクメンの話に関連させていたので、興味深く聞くことができました。そして、ナルコレプシーを例にした睡眠の研究では、オレキシンが覚醒状態の安定性を維持していることを学びました。ナルコレプシーの患者は運動中にも睡眠状態になるので、そのビデオは衝撃的でした。また、オキシトシンを用いた誘発分娩の自閉症リスクの検討の話は、社会的意義の高い研究だったので、興味深く聞くことができました。ナルコレプシーは13歳から14歳までに発症することが多いので例外ですが、神経内分泌による性質は遺伝的に決まっていると思っていました。だから、神経内分泌が雌雄の差などの先天的に獲得する性質に関わっていると思っていました。例えば、雌雄の差では、アンドロゲンとエストロゲンの性ステロイドホルモンが身体的特性を左右することです。しかし、オキシトシンを投与した場合、他者を信頼する割合が上昇する研究結果には驚かされました。なぜなら、経験依存な信頼する行動に影響を及ぼしたからです。分子レベルでも人の行動が説明できるという事実からこの神経内分泌分野の奥深さを感じました。また、線虫系の実験から光感受性細胞が神経内分泌物質を持つことを知ったので、神経内分泌物質の視覚系での役割を知りたいと思いました。

 今回のサマーコースでは知らなかったことが多く、勉強になりました。そして、参加者の方々は質問を積極的に行っていたので、活気のあるサマーコースでした。最後に、私にこのような機会を与えて頂き、ありがとうございました。

順天堂大学 D棟8階 カンファレンスルーム

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