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第14回生理学若手サマースクール
前頭葉機能
August 2-3, 2014
(本郷キャンパス)
Experience Note
大畑 龍 (大阪大学大学院生命機能研究科 特別研究推進講座 ATR認知機構研究所)
今年のセミナーでは、「前頭葉機能」というテーマで、遺伝子解析から、動物実験、人の非侵襲計測、臨床に至るまで、多角的な視点から前頭葉に特異的な活動や機能について学ぶことができました。私は関西からの参加ということで、トラベルグラントを採択していただきましたこと、誠に感謝しております。
最初にご講演いただいた宮川剛先生は、遺伝子改変マウスを用いた遺伝子と精神疾患の関係性についてお話しいただきました。神経細胞の過活動や慢性炎症が幼若マウスの遺伝子発現パターンに類似してくるというお話はとても新鮮で興味深いものでした。2人目の坂井克之先生は、前頭前野による認知制御について、fMRI や EEG、TMS など様々な手法を用いた研究をご紹介いただきました。各 trial 前の instruction cue が異なることで、脳内 network の signal の伝わり方までもコントロールされている事実に驚きを感じました。3 人目の筒井健一郎先生は、記憶保持課題などの古典的な内容から、single cell のラベリングといった新しい手法を用いた研究までサルを用いた幅広い前頭葉機能研究についてご紹介いただきました。特に TMS を用いた動物実験は聞いた事がなく、カテゴリー学習などで behavior に確かな変化が見られた事はとても興味深い内容でした。4 人目の三村將先生は、臨床の観点から、前頭葉機能の障害をどのように評価するのかを様々な認知課題の紹介とともにご説明いただきました。様々な症例を見ていく中で、改めて前頭葉はヒトがヒトたる所以となる認知的、社会的機能の中核を担っている事を実感しました。
講演全体として、基礎的な内容に半分の時間を割いていただき、また平易な言葉でご説明いただけたため、専門外の内容でも理解が進み前頭葉研究の面白さを実感することが出来ました。特に、宮川先生がご講演下さった内容は私にとって全くの専門外ではありましたが、未成熟脳を介することで、遺伝・環境の両要因から統合失調症の発症過程をモデル化できるというご説明はとても興味深いものでした。
私の研究は、非侵襲計測を用いた人の脳機能の計測・解析です。そのため普段、生理学を専門にされている方との交流は少なく、学生も含めた生理学の若手研究者の方々と色々なお話をさせていただけたのは、ご講演以外にも素晴らしい機会を与えていただけたと感じております。
前頭葉機能は、ヒトの脳機能を解明する中で重要かつ難解な問題に位置づけられると思います。今回のセミナーを通し、改めてその難しさとしかし研究対象としてのおもしろさを再確認することができました。
吉岡 敏秀 (大阪大学大学院生命機能研究科 藤田研究室)
私は視覚機能について研究していますが、うつ病やADHDなどの病気のメカニズムにも興味があり、それらの病気に深く関わっている前頭葉の機能を知りたいので、今回のサマーコースへの参加を希望しました。今回のコースでは、宮川剛先生、坂井克之先生、筒井健一郎先生、三村將先生のご講演を聞きました。今回の4人の先生方の専門分野は幅広く、サマーコースに参加する前は理解できるかどうか心配でしたが、それぞれの分野の基礎からお話し頂いたので、理解する事ができました。筒井先生のご講演は、私がサルで実験しているので、興味深く聞くことができました。特に、単一神経細胞の活動記録だけではなく、記録した細胞の標識や遺伝子発現の網羅的解析を行う話は、サルの行動と神経細胞の種類を結びつけることができると感じたので、魅力的なお話でした。宮川先生のお話は分子生物学から疎遠な学生である私には用語は難しかったですが、光遺伝学などの最新の技術を含んでいたので、興味深く聞くことができました。また、マウスがヒト疾患モデルになるかどうかの議論は、同じような実験をしていても、研究グループにより解釈は異なる場合があるので、どんな研究をしていても起こる可能性があり、研究の世界も難しいと感じました。知覚を引き起こす神経回路に興味のある私には、坂井先生の前頭前野からの情報伝達の様子を調べる研究は魅力的な話でした。三村先生は、臨床症状や評価法のお話だけでなく、評価法を体験させてくれたので、医者でない私でも理解しやすかったです。今回の4人の先生方はわかりやすかったので、充実した2日間を過ごせました。このような機会を与えて下さり、ありがとうございました。
順天堂大学 センチュリータワー 北16階
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